令和5年5月18日スタディグループ清歯塾の講演会があり参加しました。講師は大阪大学歯学部 口腔総合診療部 杉山敬多 先生です。演題は「臨床につなげる基礎研究~電子顕微鏡を用いた形態研究から~」です。先生は基礎研究なので実際の臨床に結びつくかどうか・・・とお話されていましたが、どうしてどうして。明日からの臨床に応用できる内容でした。
初めは電子顕微鏡から。私たちが学生時代お世話になったのは、光学顕微鏡でした。倍率は1000倍までが限度です。それ以上に拡大が必要ですと走査型電子顕微鏡(SEM)が必要で数10万倍まで見ることができます。また陰影がつくので立体構造が見やすいという特徴があります。それ以上に拡大する場合は透過型電子顕微鏡(TEM)があり、数100万倍まで見ることができるそうですが、立体的な構造は見ることはできません。
先生はこのような顕微鏡を使い、ボンディングした歯牙とレジンの接合部分や8回使用したニッケルチタンファイルの先端部分を調べ、どのようなことが起きているかを解説して頂きました。また歯髄温存療法における石灰化にどのような変化があるかを解説して頂き、その石灰化物に含まれるAGEという物質を応用し歯髄温存療法に適応するという研究を発表していただきました。
ボンディングでの接着不良は、ボンディング層の形成不良とレジンの重合不良の2つがありますが、その原因は水分の残存、光量の不足、エアーブローの不足等が考えられます。先生は特に水分除去の必要性を電子顕微鏡で解説して頂きました。水分除去を行うためには修復物であればサンドブラスト処理を行った後は、多少アルミナが残っていても水洗せず、エアーブローだけにする。支台歯には無水エタノール(99.5%)を塗布して乾燥する。消毒用エタノールは水分を含むため効果がないそうです。また接着に必要なプライマーの選択についても解説して頂きました。
ニッケルチタンファイルは使用回数を超えると、どんなにきれいに見えてもひび割れが生じており、交換が必要との事でした。また根管充填に用いるマスターポイントも製品によって先端がささくれており、注意が必要との事でした。
AGE(酸化終産物)は美味しそうに見えるカレー・ビール・ケーキ・肉等食品に含まれている茶色い物質です。加齢により歯牙が茶色く変色する原因もAGEだそうです。歯髄温存療法は現在MTAセメントが主流ですが、従来のカルシウム製剤との比較では有意差はあまりないとの事でした。その2つに加えAGEを歯髄温存療法に適応したところこの2つをしのぐ効果があったとの事です。残念ながら臨床応用には数年かかるとの事です。海外では抜髄の症例が日本に比べ少なくなっているとの事で、この分野における材料の開発が待たれます。
当院でも早速無水エタノールを購入し、より外れない修復物にしていきたいと思いました。
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